「救うのは太陽だと思う」

” 救うのは太陽だと思う ” 鮮烈だね。CMとして極めて秀逸だ。カンツォーネ「オーソレミヨ」がバックで流れる中を吉永小百合さんが、意志を込めた口調でスクウノハタイヨウダトオモウと語る。今春から流れ始めたような記憶ですが、何度耳にしても「良いねえ」と感激してしまう。この一言だけで、これからの時代の社会システムの構想の全てを語っているかのようだ。企業としてのシャープが何処まで、太陽光発電を含むグリーンニューディール産業を構想し、強い意志を固めたかは、不明だが言葉が持つ強烈なイメージを毎日1億人の市民にテレビを通して提案し続けている責任は果たしてもらいたいと思う。インパクトが強いといわれる映像メディアをすら超越して僕らの心に響くラジカルな言葉、現代的なフレーズだろう。CM史に残る名作といえる。

ついでに、気がついたCMを。けっこういけてるのは、今夏まで放映していた資生堂の「かわいいは、つくれる」かな。まさに身も蓋もなくて、最高だね。かわいいも、キレイも作っちゃえるってわけだから、あけすけで凄いです。化粧品会社の本音だし、実は女性たちの本音でもあるので、「もともとそんなこと知ってる」男としての僕は見ていてクスッとなる。これで”ブス”で有名だった南海キャンディズの静ちゃんがいっきにメジャーになったし、何でもかでもオープンな時代にふさわしく、みんなあけすけで、てれずに、いや、恥ずかしさも棚上げにして、ハッピーとなっている。電車の中で化粧に勤しむ女性が結構いる現象と同列な位相だろう。だって、とりあえず、うわべだけでOK、とみんなで認め合っているんだもの。

同じく資生堂の最近フジテレビを退社した滝川クリステルも加わった「椿 TUBAKI」のセクシーでリズミカルに揺れる豊かな黒髪と後ろ姿。ウーマンたちの眼差しやボディーラインが僕の目をいつも奪う。SMAPの楽曲もなかなかだね。僕の好きな鈴木京香(仙台出身)とか、蒼井優仲間由紀恵もいるし・・・。髪は女の命というのは、多分世界共通だろうね。ベトナムも、文化として女性はロングヘアーに常にこだわりを持っている。長い黒髪とアオザイ。CM的最高の絵柄だなあ。「椿」のベトナム版の作成を期待したいものだ。

で、読書の秋で、例のドストエフスキー亀山郁夫訳「罪と罰」はいま、2巻目の丁度200P。加藤周一さんが亡くなって、そろそろ一年だなあ、と思って「日本文学史序説上巻」買って、20ページほどよんでいたが、引っ越しの騒乱とぶつかって、なぜだかこれだけ見つからず、ストップ状態。書籍を入れたままの段ボールの山に紛れたのかも。もし、紛れたのなら来年夏移転までは、封印状態だな。先日、馴染みの病院にいったときに、なぜかうかつにも、カバンに本が一冊も入っていないことがあり、1時間も待合室でぼんやりできないから、慌ててこの病院のそばの本屋へ。花小金井駅のそばだから、本らしき本が売っていない。受賞ものとか、勝間和代とかのはやりものしかないのには困った。

が、文庫コーナーが在ったのでちょっと思い出して中勘助の「銀の匙」を探したが無いので、どうするべえと考え、じゃあ読んだこと無い作家にしようと思い山本周五郎の短編集「日々平安」に。9月ぐらいにNHKでやっていたドキュメントに灘校の国語の元教師がでており、驚いたことに灘校の三年生の国語の授業は一年間この中勘助銀の匙」に取り組むだけなのだという。この先生は30年間ほど、毎年それ一本槍で、受験教育いっさい無しでやってきたのだという。受験学習をそれなりにやらなくてはいけないという世間的誘惑や教員組織の圧力に負けず、生徒も生徒だし、親も凄いが、この老教員の一徹さは教師の鏡だぜ。定年で引退して、20年近く経ったようで、50歳代の企業幹部や官僚の幹部、学者になった人たちがこの老先生の一年間の国語の授業の豊かさと、「本物の授業」の偉大さをそれぞれに語っていた。教え子の中の一人は灘校の国語の教員になっており40歳代の彼は「源氏物語」を1年間一本槍でやっている。老教員の本質を学ぶ伝統を継承しているらしい。「流石、灘校」と脱帽だね。

僕が仙台二高の時、国語の担当は担任でもある辺見裕先生で、あの尊敬する作家辺見庸さんの兄貴であった人だが、僕が2年生か3年生の時分に「日比谷高校や灘高では、教員がカリキュラムに沿って教えたりしない。できる生徒が教壇にたって、授業を展開している」と言ったことがあった。「都会にはスゲー高校があり、スゲー連中がわんさかいるもんだ」と僕らは一斉に驚嘆しざわついたものだ。あるとき彼は国語の教材に関係なく天才寺山修司の(残念ながら詳細は思い出せないのだが)「少女」と「半島」に関するものの短歌を取り上げ、大分時間を使って、魚群相手の夜の漁船のランプのように煌々と、僕たち16才に現在からの出口の在処を暗示させていた。懐かしさと同時に良質な教員たちの知性とか努力とかが僕の脳裏に甦ってくる。「今後思想家トロッキーが見直される」と授業でぼそっと語った世界史の佐藤英樹先生もいた。お二方とも、既に亡くなられている。